保険・療養費

柔道整復師の療養費制度の基礎|保険適用の5傷病と請求の基本ルール

著者: インフォサクセス(Infosuccess) 2026年8月21日 公開 読了 約14分
療養費制度の基礎を示したバナー。骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷の5傷病アイコン、保険診療と療養費の対比、療養費支給申請書
⚠️ この記事を読むべき方

整骨院・接骨院で保険請求を扱う方、これから学ぶ方で、以下のいずれかに当てはまる方:

「患者さんに『保険使えますか』と聞かれて、正確に答えられない」「どこまでが対象か曖昧なまま請求している」「返戻が来る理由が分からない」

柔道整復の保険は、医療機関の「保険診療」とは制度そのものが異なります。正しくは「療養費」であり、患者が本来全額を負担したうえで保険者に支給を申請する仕組みです。
本記事では、療養費の基本構造、支給対象となる5傷病、支給の3要件、受領委任の仕組み、対象外になる典型例、患者さんへの説明の仕方までを解説します。

1. 療養費とは何か|保険診療との違い

保険診療と療養費の違いを示した図
図1: 保険診療と療養費の制度上の違い。

まず制度の位置づけを正確に押さえましょう。ここを誤解していると、患者さんへの説明も広告表現も間違えることになります

1-1. 「保険診療」ではない

項目 医療機関(保険診療) 施術所(療養費)
制度上の位置づけ 現物給付 現金給付(償還払いが原則)
建て前 保険者が医療サービスを給付する 患者が費用を負担し、保険者に支給を申請する
根拠 健康保険法 第63条 健康保険法 第87条
対象 疾病・負傷全般 5傷病に限定
📚 なぜ「療養費」なのか

健康保険法第87条は、「保険者がやむを得ないものと認めるとき」に療養費を支給できると定めています。
つまり療養費は例外的な給付です。医療機関での診療が原則で、施術所の施術はその例外として扱われる。この構造が、支給要件が細かく定められている理由です。

1-2. 「保険が使える」という言い方が招く誤解

患者さんの理解 実際
病院と同じように保険が効く 対象は5傷病に限られる
どんな症状でも3割負担で済む 要件を満たさなければ全額自費
通い続ければずっと保険が使える 負傷が治癒すれば終了

この誤解が、後のトラブルにつながります。初回に正確に説明しておくことが、最も確実な予防策です。

1-3. 広告での表記にも影響する

⚠️ 「各種保険取扱」が禁止例である理由

制度上、施術所は「保険を取り扱っている」のではありません。患者が療養費の支給を申請できる、というのが正確な理解です。
「各種保険取扱」はガイドラインで明示的に挙げられている禁止例です。正しくは「医療保険療養費支給申請ができます(適用条件があります)」と書きます。

料金表記の詳細は、整骨院の料金表の正しい書き方で解説しています。

2. 支給対象となる5傷病

支給対象の5傷病を示した図
図2: 療養費の支給対象となる5傷病。

療養費の支給対象は、骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷の5つに限られます。

傷病 内容 医師の同意
骨折 骨の連続性が断たれた状態 必要(応急手当を除く)
脱臼 関節を構成する骨が正常な位置から外れた状態 必要(応急手当を除く)
打撲 外力によって皮下組織や筋肉が損傷した状態 不要
捻挫 関節に外力が加わり靱帯などが損傷した状態 不要
挫傷 筋や腱が急激な力で損傷した状態(いわゆる肉ばなれ) 不要

2-1. 日常語と傷病名の対応

患者さんは傷病名で症状を訴えません。日常語を正しく翻訳する必要があります。

患者さんの言葉 該当する傷病
ぎっくり腰になった 急性腰部捻挫
寝違えた 頸部捻挫
足をひねった 足関節捻挫
ぶつけて青あざになった 打撲
走っていて肉ばなれした 挫傷
突き指した 指部捻挫または挫傷

2-2. 対象外になるもの

❌ 対象外 理由
肩こり・慢性的な腰痛 5傷病に該当しない
単なる疲労・疲労回復 負傷ではない
スポーツによる筋肉疲労 同上
日常生活での加齢による痛み 外傷性がない
神経痛・リウマチ 内科的原因による疾患
症状の慢性化した五十肩 外傷性がない
病院で治療中の同一部位 重複受診にあたる
⚠️ 広告に書けない語と一致する

「肩こり」「腰痛」が広告で使えないのは、そもそも療養費の対象外だからという背景があります。
対象外の症状を広告で訴求すれば、不適正請求の誘因になりうる。広告規制と療養費制度は、この点でつながっています。

使えない症状名の一覧は、整骨院で使ってはいけない症状名・療法名一覧にまとめています。

保険の説明、広告表現として問題ありませんか?

「各種保険取扱」はガイドラインの明示禁止例です。院内掲示・HP・チラシに残っていないか確認が必要です。
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3. 支給の3要件|外傷性・急性・原因の特定

日常語と傷病名の対応を示した図
図3: 日常語と傷病名の対応。

5傷病に該当していても、それだけでは足りません。3つの要件をすべて満たす必要があります

# 要件 意味
1 外傷性であること 身体に外部から力が加わって生じた負傷であること
2 急性または亜急性であること 慢性的に生じたものではないこと
3 原因が特定できること いつ・どこで・何をして負傷したかが明確であること

3-1. 「いつ・どこで・何をして」を聞き取る

3番目の要件が、実務上最も重要です。初回の問診でここを確認できていないと、後から証明できません

✅ 聞き取りの型

いつ:「いつ頃から痛みますか」→ 具体的な日時
どこで:「どちらで負傷されましたか」→ 自宅 / 職場 / 屋外 など
何をして:「どういう動作のときでしたか」→ 段差を踏み外した / 荷物を持ち上げた など

この3つが答えられない場合、療養費の対象にならない可能性が高いと判断してください。

3-2. 判定に迷う典型例

ケース 判定 理由
朝起きたら首が回らない 対象になりうる 寝違え=頸部捻挫。原因の説明が可能
なんとなく前から腰が重い 対象外 原因が特定できない
荷物を持ち上げて腰を痛めた 対象になりうる 外傷性・急性・原因が明確
デスクワークで肩が凝る 対象外 外傷性がない
部活の練習中に足首をひねった 対象になりうる 3要件を満たす
1ヶ月前の負傷が治らない 要判断 負傷は事実だが、経過が長い場合は説明が必要

3-3. 施術録に残す

⚠️ 記録がなければ証明できない

保険者から照会を受けたとき、頼りになるのは施術録だけです。記憶では対応できません。
負傷日・負傷原因・部位・施術内容を、初回に必ず記録してください。「腰痛」とだけ書かれた施術録は、返戻の原因になります。

4. 骨折・脱臼は医師の同意が必要

支給の3要件を示したフロー図
図4: 療養費支給の3要件。

5傷病のうち、骨折と脱臼だけは扱いが異なります

4-1. 根拠

📚 柔道整復師法 第17条

「柔道整復師は、医師の同意を得た場合のほか、脱臼又は骨折の患部に施術をしてはならない。ただし、応急手当をする場合は、この限りでない。」
これは療養費の要件である以前に、業務そのものの制限です。同意なく骨折・脱臼の患部を施術すること自体が法令違反になります。

4-2. 応急手当の範囲

できること その後
応急的な整復・固定 継続して施術するには医師の同意が必要
患部の保護・冷却 同上
医療機関への受診案内

応急手当は「その場の1回」に限られます。 翌日以降も施術を続けるなら、医師の同意が必要です。

4-3. 同意の取り方

方法 内容
患者を受診させる 医療機関で診断を受け、施術所での施術について同意を得てもらう
同意書を作成する 医師に記載してもらう。書式は保険者により異なる
口頭同意 認められる場合があるが、記録を残すこと
⚠️ 骨折が疑われたら受診を案内する

変形・強い腫脹・荷重できない・限局した圧痛。これらがある場合は骨折を疑い、医療機関の受診を案内してください。
「様子を見ましょう」で施術を続け、後から骨折が判明した場合、法令違反と施術ミスの両方が問題になります。判断に迷うなら受診を勧める。これが原則です。

5. 受領委任と償還払いの違い

判定に迷うケースを示した図
図5: 判定に迷う典型例。

制度上は償還払いが原則ですが、実務ではほとんどが受領委任です。

5-1. 2つの方式

項目 償還払い 受領委任
患者の窓口負担 いったん全額 一部負担金のみ
申請する人 患者本人 施術所が代行
支給先 患者 施術所
手続き 患者が保険者に申請 施術所が申請書を作成し、患者が署名

5-2. 受領委任を扱うための条件

条件 内容
受領委任の取扱いに関する届出 地方厚生局または都道府県に提出
登録記号番号の取得 届出後に付与される
施術管理者の要件 実務経験と研修の修了が求められる
⚠️ 患者の署名は必ず本人から

療養費支給申請書への署名は、患者本人が行う必要があります。施術所が代筆することはできません。
白紙の申請書に署名を求める、まとめて署名させるといった運用も不適切です。内容を確認してもらったうえで、その都度署名を得る。 これが原則です。

5-3. 一部負担金の割合

区分 負担割合
一般(70歳未満) 3割
70〜74歳(一般所得) 2割
75歳以上(一般所得) 1割
現役並み所得者 3割
未就学児 2割

自治体の助成制度により、実際の窓口負担がさらに軽減される場合もあります。「○円です」と断定せず、幅で説明してください。

6. 対象外になる典型例

骨折・脱臼の同意要件を示した図
図6: 骨折・脱臼における医師の同意。

返戻や指導の原因になりやすいケースを整理します。

6-1. 要件を満たさないケース

ケース 問題
慢性的な肩こり・腰痛への施術 外傷性でない
疲労回復・健康維持を目的とした施術 負傷ではない
原因が説明できない痛み 3要件の3番目を満たさない
同一部位を医療機関で治療中 重複受診
治癒後も継続している施術 負傷が存在しない

6-2. 手続き上の問題

ケース 問題
負傷部位を実際より多く記載 不正請求
施術していない日を記載 同上
白紙の申請書に署名させる 不適切な運用
骨折・脱臼を同意なく継続施術 柔整師法第17条違反
施術録に負傷原因の記載がない 照会に対応できない

6-3. 対象外の場合の対応

✅ 自費で案内する

対象外だからといって施術できないわけではありません。自費メニューとして案内すれば問題ありません
「保険の対象にはなりませんが、自費での手技療法をご案内できます」と伝え、料金を明示してください。
問題になるのは、対象外のものを対象として請求することです。

❌ やってはいけない ✅ 正しい対応
肩こりを「頸部捻挫」として請求 自費メニューとして案内する
負傷原因を作って記載する 聞き取った内容をそのまま記録する
「保険が使えます」と言い切る 「適用条件を確認させてください」と伝える

7. 患者さんへの説明の仕方

受領委任と償還払いの違いを示した図
図7: 受領委任と償還払いの違い。

受付・施術者が同じ説明をできる状態にしておくと、トラブルが減ります。

7-1. 「保険使えますか?」への回答

✅ 説明の型

「当院で療養費の対象になるのは、骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷といった、原因がはっきりした負傷に限られます。
まず、いつ頃・どのような状況で痛みが出たかをお聞かせいただけますか。
お話を伺ったうえで、対象になるかご説明します。
対象外の場合も、自費での施術をご案内できます。」

ポイントは「使えます」と即答しないことです。要件を確認してから判断する、という順序を守ってください。

7-2. 「肩こりも診てもらえますか?」への回答

✅ 説明の型

「慢性的な肩の張りについては、療養費の対象にはなりません。
ただし、自費での手技療法をご案内できます。料金は○○円です。
もし『重い物を持ってから急に痛くなった』というような、きっかけがはっきりしている場合は、対象になることもあります。詳しくお聞かせいただけますか。」

7-3. 説明時に避けるべき言い方

❌ 避ける 問題
「保険効きますよ」 要件を確認していない
「肩こりでも大丈夫です」 不適正請求を示唆する
「悪いことは書かなくていいですよ」 虚偽の記載を促す
「どこか痛いことにしておきましょう」 不正請求

7-4. 院内掲示で補う

✅ 掲示の文例

療養費のご案内

骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷については、医療保険療養費の支給申請ができます。

・原因が特定できる負傷が対象です
・骨折・脱臼は応急手当を除き、医師の同意が必要です
・慢性的な症状や疲労回復を目的とした施術は対象外です
・対象外の場合は自費でのご案内となります

適用の可否は受付でご説明します。

4業態の制度上の違いは、接骨院・整骨院・整体院・カイロの違いを一枚で理解するで解説しています。整体院に療養費がないのは、国家資格に基づく施術所ではないためです。

8. よくある質問FAQ

対象外になる例を示した図
図8: 療養費の対象外になる典型例。

Q1. 「保険診療」と言ってはいけないのですか?

正確ではありません。施術所で行われるのは療養費の支給申請であり、医療機関の保険診療とは制度が異なります。広告でも院内説明でも「療養費」という語を使ってください。「保険診療」と言うと、医療機関と同等の行為を行っているという誤認を招きます。

Q2. 患者さんが原因を覚えていない場合は?

丁寧に聞き取ってください。「いつ頃から」「どんな動作のとき」を具体的に尋ねると、思い出されることがあります。それでも特定できない場合は、療養費の対象にならない可能性が高いと判断してください。原因を作って記載するのは不正請求です。自費での施術を案内する形になります。

Q3. 骨折を応急手当した後、どうすればいいですか?

速やかに医療機関の受診を案内してください。応急手当はその場の1回に限られ、継続して施術するには医師の同意が必要です。患者さんには「骨折の疑いがあるため、一度医療機関で診てもらってください。その後、医師の同意が得られれば当院で施術を続けられます」と説明します。

Q4. 交通事故のケガも療養費ですか?

いいえ。交通事故は自賠責保険が原則で、健康保険の療養費とは別の制度です。第三者行為による負傷にあたるため、健康保険を使う場合も「第三者行為による傷病届」の提出が必要になります。交通事故対応の詳細は整骨院の交通事故対応で違反にならない広告表現で解説しています。

Q5. 何ヶ月まで施術できますか?

期間の上限が一律に定められているわけではありませんが、負傷が治癒すれば終了です。長期にわたる場合、保険者から照会が来ることがあります。施術録に経過を記録し、なぜ継続が必要なのかを説明できる状態にしておいてください。漫然と継続すると、返戻や指導の対象になります。

Q6. 申請書に患者さんが署名してくれません

署名は患者本人によるものが必要で、代筆はできません。内容を丁寧に説明し、納得のうえで署名いただいてください。それでも応じられない場合は、償還払い(患者が自分で申請する方式)への切り替えを案内することになります。白紙署名やまとめ署名は不適切な運用です。

Q7. 部位数が多いと返戻されますか?

部位数そのものより、実態と一致しているかが問われます。実際に負傷していない部位を記載すれば不正請求です。逆に、実際に複数箇所を負傷しているなら記載して問題ありません。ただし多部位・長期にわたる場合は照会を受けやすくなるため、施術録の記載を充実させておいてください。

Q8. 保険者から照会が来ました。どうすればいいですか?

まず施術録を確認し、事実に基づいて回答してください。負傷日・負傷原因・施術内容・経過が記録されていれば、通常は問題なく対応できます。記録が不十分だと説明が困難になります。判断に迷う場合は、加入している業界団体に相談してください。

9. まとめ|制度を正確に伝えることが信頼になる

療養費運用のアクションを示した図
図9: 療養費運用のアクション。

療養費は例外的な給付です。医療機関での診療が原則で、施術所の施術はその例外として認められている。だから要件が細かく定められています。

この構造を理解していれば、「保険使えますか」への答え方も、広告での表記も、自然に決まります。「使えます」と即答せず、要件を確認してから判断する。 これが基本姿勢です。

本日中に確認すること

  1. 「各種保険取扱」が残っていないか:HP・院内掲示・チラシ・GBP
  2. 院内掲示に適用条件が書かれているか:5傷病・医師の同意・対象外
  3. 施術録に負傷原因が記録されているか:直近10件を抜き取り確認

今週中にできること

  1. 問診の型を統一する:「いつ・どこで・何をして」を必ず聞く
  2. 説明スクリプトを作る:「保険使えますか」「肩こりも診てもらえますか」への回答
  3. 自費メニューの料金を掲示する:対象外のときの案内先を用意する

今月中に仕組みにすること

  1. 施術録の記載項目を定型化する:負傷日・原因・部位・施術内容
  2. スタッフに制度を説明する:「保険診療ではなく療養費」という理解を共有
  3. 長期・多部位の症例を洗い出す:照会が来ても説明できる状態にする

療養費の運用は、広告規制と地続きです。対象外の症状を広告で訴求すれば、不適正請求の誘因になります。逆に、制度を正確に理解していれば、広告表現も自然に適正な範囲に収まります。まずは院内掲示から見直してください。

保険に関する表記、全媒体で正確ですか?

HP・院内掲示・チラシ・GBP。「各種保険取扱」が1箇所でも残っていれば指導の対象です。
柔整ガイドAIは、GBP・HP・SNSを業種特化AIが自動診断するSaaSです。

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