この記事を読むべき方
- 2025年2月のガイドラインで何が変わったのか、全体像を把握したい
- 看板・チラシ・ホームページで、それぞれ何が許されるのか整理したい
- 保健所から連絡が来たとき、どう進むのかを知っておきたい
- スタッフに説明できる形で、規制の骨格を理解したい
2025年2月18日、厚生労働省が「あはき・柔整広告ガイドライン」を発出しました。正式名称は「あん摩業、マッサージ業、指圧業、はり業、きゅう業若しくは柔道整復業又はこれらの施術所に関して広告し得る事項等及び広告適正化のための指導等に関する指針」です。
断片的な情報は業界内に多く流れていますが、全体像を示したものは多くありません。「肩こりと書いたら違反」「口コミ1位はダメ」といった個別の話だけが伝わり、なぜそうなるのか、どこまでが対象なのかが曖昧なまま残っています。
この記事では、ガイドライン本文の構成に沿って全体を整理します。判断の根拠さえ分かれば、個別の表現で迷ったときにも自分で結論を出せるはずです。
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2025年2月に何が変わったのか

最初に押さえておきたいのは、この発出が新しい規制を作ったものではないという点です。
柔道整復師法第24条とあはき法第7条による広告制限は、以前から存在していました。長野県も公式サイトで「従来からの法令による広告規制に変更はありません」と説明しています。では何が変わったのか。
変わったのは、判断基準が全国共通で文書化されたことです。これまでは何がどこまで許されるのか、自治体ごとに解釈が分かれていました。保健所の担当者が苦情を受けても、明確な基準がないため対応が難しい状況がありました。
ガイドラインの検討は6年以上にわたって続けられ、「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等・柔道整復師の広告に関する検討会」で議論されてきました。その結論が文書として整理されたのが今回の発出です。
実務への影響は2つあります。保健所が指導しやすくなったこと。そして、院側も何が問題なのかを事前に確認できるようになったことです。後者は不利益ばかりではありません。従来は「たぶん大丈夫だろう」で運用するしかなかった部分に、確認の手段ができました。
広告の三要件 — 何が「広告」に当たるのか

ガイドラインの土台になるのが、広告の定義です。次の3つをすべて満たすものが広告として扱われます。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 誘引性 | 患者の受療等を誘引する意図があること |
| 特定性 | 施術者の氏名または施術所の名称が特定できること |
| 認知性 | 一般人が認知できる状態にあること |
この3つが揃って初めて広告になります。逆に言えば、1つでも欠けていれば法令上の広告規制は及びません。
実務で効いてくるのは認知性です。看板、のぼり、チラシ、新聞広告、電話帳、リスティング広告、バナー広告は、不特定多数が目にする状態にあるため認知性を満たします。
一方、施術所のウェブサイトは、利用者が自ら検索して訪問するものです。向こうから情報が飛び込んでくるわけではありません。そのため認知性を欠くと整理されています。
ただし、リスティング広告やバナー広告からの遷移先としてサイトが一体で運用されている場合は、広告として扱われることがあります。「サイトだから対象外」と一律に考えるのは危険です。
広告できる事項は限定列挙されている

ここが医科・歯科との最大の違いです。医療広告は「これは書いてはいけない」というネガティブリスト方式ですが、柔整とあはきは「これしか書いてはいけない」というポジティブリスト方式を採ります。
根拠は柔道整復師法第24条第1項および厚生省告示第70号です。主な項目は次のとおりです。
| 広告できる事項 | 補足 |
|---|---|
| 柔道整復師である旨、氏名、住所 | — |
| 施術所の名称、電話番号、所在の場所 | 名称には別途ルールがある |
| 施術日・施術時間 | 「診療時間」とは書けない |
| ほねつぎ(または接骨) | — |
| 医療保険療養費支給申請ができる旨 | 脱臼・骨折の患部については、医師の同意が必要な旨を明示する場合に限る |
| 予約に基づく施術の実施 | — |
| 往療の実施 | 「往診」とは書けない |
| 駐車設備に関する事項 | — |
リストにないものは書けない、という構造です。施術の内容、技術の水準、経歴、学会所属、受賞歴。これらはすべて列挙されていないため、広告できません。
「医療保険療養費支給申請ができる旨」については、条件つきで併記が認められています。外傷性が明らかな骨折・脱臼・打撲・捻挫等が支給申請の対象であること、そのうち脱臼・骨折の患部の施術に係る申請については医師の同意が必要であること。この2点の併記は差し支えないとされています。
広告できない事項の具体例

ガイドラインは、広告できない事項を具体例つきで示しました。院で実際に使われている表現も少なくありません。
| 区分 | 広告できない例 | 代替 |
|---|---|---|
| 保険 | 各種保険取扱い/労災保険取扱い/自賠責保険取扱い/交通事故取扱い | 医療保険療養費支給申請ができます(条件を併記) |
| 施術日時 | 診療時間/診療日/診察/初診/再診/休診日 | 受付時間/施術時間/初検/再検/休療日 |
| 往療 | 往診/訪問診療 | 往療/訪問施術の実施 |
| 施術方法 | ○○流整体/痛くない鍼/独自の技術 | (削除) |
| 経歴 | ○○学会会員/○○に師事/米国公認資格 | (削除) |
| 比較優良 | 日本一/No.1/地域最高/口コミサイト1位 | (削除) |
「診」という文字の扱いは、見落とされやすい部分です。柔道整復師が行うのは施術であって診療ではありません。そのため「診療時間」「休診日」「初診料」といった表記は、広告としては使えないことになります。
実際には、多くの院が看板やチラシでこれらを使っています。医科のクリニックに慣れた業者が制作すると、自然にこの表記になってしまうためです。
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施術所の名称に関するルール

名称にも制限があります。これは修正の負担が最も大きい領域です。看板、名刺、診察券、印鑑まで作り直しになるためです。
広告できない名称の例として、次が挙げられています。
| 類型 | 例 | 理由 |
|---|---|---|
| 業態が混在している | ○○鍼灸接骨院 | 提供する施術業態が混ざっている |
| 医療機関と紛らわしい | ○○メディカル/○○クリニック | 医療機関と誤認されるおそれ |
| 業態を含まない | ○○治療院/○○療院 | 何を提供するのか判別できない |
| 専門性の標榜 | 交通事故専門/むちうち専門 | 専門性の広告に当たる |
| 施術内容の標榜 | ○○骨盤矯正院/○○姿勢改善院 | 施術方法の広告に当たる |
「鍼灸接骨院」が問題になるのは、鍼灸はあはき法、接骨は柔整師法と、根拠法が異なるためです。併記する場合は「○○接骨院・鍼灸院」のように業態を分けて示す形が想定されています。
名称の変更には相応の費用と時間がかかります。実際に、16年使ってきた院名を保健所からの指摘で変更し、看板・名刺・診察券をすべて作り直した事例が報告されています。新規開業や移転のタイミングで検討するのが現実的です。
ウェブサイトは広告ではない、ただし

ここが最も誤解されやすい部分です。
施術所のウェブサイトは、認知性を欠くため原則として柔整師法・あはき法上の広告には該当しません。これはガイドラインに明記されています。したがって、ポジティブリストによる制限はサイトには直接適用されません。
ただし、ガイドラインはウェブサイトについても「掲載すべきでない事項」を別途定めています。自主的な適正化を促すための指針という位置づけです。
| 区分 | 掲載すべきでない例 |
|---|---|
| 虚偽・証明できないもの | 治ります/根本治療/○○に効きます/○○の治癒率○○%/自信があります |
| 誇大 | 絶対安全な施術です/たった1回で効果を実感/改善率○○%以上 |
| 比較優良 | 日本一/No.1/全国優良○○院 |
| 体験談 | 有利な感想のみを意図的に取捨選択して強調すること |
| 写真 | 加工・修正した施術前後の写真/撮影条件を変えた写真 |
| 不安の喚起 | こんな症状が出ていれば命に関わりますので今すぐ受療ください |
整理すると、こうなります。保険取扱いや診療時間といった表記は、広告では不可ですが、サイトの掲載すべきでない事項には含まれていません。一方、効果の断定はサイトでも明確に掲載すべきでないとされています。
この違いを理解しておくと、優先順位がつけられます。サイトを直すなら効果の断定が先、看板やチラシを直すなら保険と日時の表記が先、という順序になるでしょう。
なお、ウェブサイトが柔整師法・あはき法の対象外であることと、他の法令の対象外であることは別の話です。景品表示法など、広告に関する他の法令はサイトにも及びます。
指導はどう進むのか

違反があった場合の流れを知っておくと、必要以上に不安を抱えずに済むはずです。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 1. 端緒 | 苦情や通報、巡回、開設時の確認などで把握される |
| 2. 任意調査 | 施術者に説明を求める |
| 3. 行政指導 | 訪問・電話・文書等で中止や是正を求める。是正期間が設けられる |
| 4. 報告徴収等 | 指導に従わない場合に行われる |
| 5. 告発の検討 | 健康被害のおそれがあり、指導にも応じない悪質な事案 |
いきなり罰則が科されるわけではありません。まず指導があり、是正の機会が与えられます。世田谷区は2025年の勉強会資料で、区内の広告違反について告発事例はないと説明し、行政指導で是正していると回答しています。
とはいえ、指摘を受けてから直すのは手戻りが大きくなりがちです。看板を作り直した後で「その表記も不可です」と言われかねません。事前に確認しておくほうが、結果的には安く済むでしょう。
迷ったときは、所轄の保健所に相談するという手があります。厚生労働省も相談先として自治体の窓口を案内しており、荒川区のようにオンラインの相談フォームを設けた自治体も出てきました。無料で、しかも最終的に判断する主体に直接聞けるため、確実性という点では最も高い方法でしょう。
よくある質問

Q1. ホームページなら何を書いてもいいのですか
いいえ。ガイドラインは、広告に該当しないウェブサイトについても「掲載すべきでない事項」を定めています。効果の断定、誇大表現、比較優良、加工した施術前後の写真などが該当します。また景品表示法など他の法令はサイトにも及ぶため、「広告規制の対象外」と「何を書いてもよい」は別の話とお考えください。
Q2. 周りの院はみんな「肩こり」と書いていますが
サイトについては、症状名の記載が直ちに問題になるわけではありません。掲載すべきでない事項のリストに症状名は含まれていないためです。ただし看板やチラシでは、広告できる事項の限定列挙に含まれないため書けません。また柔道整復師の業務範囲は骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷であり、その範囲を超えた訴求は説明の整合が取れなくなります。
Q3. 罰金30万円という話を聞きましたが
柔道整復師法第30条第5号に、30万円以下の罰金の規定はあります。ただし実務上は行政指導から始まり、是正の機会が与えられる流れです。2025年2月の発出以降、広告違反を理由に罰金が科された事例は、公開情報では確認できていません。過度に不安になる必要はありませんが、放置してよいという意味でもありません。
Q4. 院名を変えなければいけませんか
「鍼灸接骨院」のように業態が混在している名称、「メディカル」「クリニック」など医療機関と紛らわしい名称は、広告できない名称の例に挙げられています。ただし名称変更は費用も時間もかかります。まず所轄の保健所に相談し、変更が必要か、いつまでに必要かを確認してから判断してください。
Q5. Instagramの投稿は広告に当たりますか
投稿の性質によります。フォロワーに向けた通常の投稿は、利用者が自らアカウントを訪問して見るものであり、サイトと同様の整理になると考えられます。一方、費用を払って表示させる広告投稿は認知性を満たすため、広告として扱われます。判断に迷う場合は所轄の保健所に確認してください。
Q6. 制作会社に任せていますが、責任は誰にありますか
広告の内容について指導を受けるのは施術所です。制作会社に任せていたという説明は、指導を免れる理由にはなりません。医科のクリニックに慣れた業者ほど「診療時間」「初診」といった表記を自然に使うため、柔整の規制を理解している業者かどうかを確認しておく必要があります。
Q7. 過去に作った看板も直さなければいけませんか
ガイドラインは既存の広告にも適用されます。ただし一斉に撤去を求められるわけではなく、多くの自治体はまず周知を行い、その後に個別の指導へ進んでいるようです。更新のタイミングで順次直していくのが現実的でしょう。
Q8. 患者さんの声を載せてはいけませんか
サイトについては、有利な感想のみを意図的に取捨選択して強調することが掲載すべきでない事項とされています。掲載自体が禁止されているわけではありませんが、良い声だけを並べる形は該当する可能性があります。看板やチラシでは、広告できる事項の限定列挙に含まれないため掲載できません。
まとめ

本日中にできること
- 自院サイトに「治ります」「根本治療」「○○に効きます」がないか確認する
- 看板とチラシに「各種保険取扱」「診療時間」がないか確認する
今週中にできること
- ガイドライン本文を所轄保健所のサイトまたは厚労省サイトで確認する
- スタッフのSNS投稿ルールを決めておく
今月中にできること
- 判断に迷う表現を書き出し、所轄の保健所に相談する
- 次の看板・チラシの更新時期を決め、そこで表記を統一する
ガイドラインの全体像をつかむうえで最も重要なのは、媒体によって基準が違うという点です。看板・チラシ・リスティング広告は限定列挙、ウェブサイトは掲載すべきでない事項。この2つを混同すると、必要のない修正をしたり、逆に必要な修正を見落としたりします。
そして、判断に迷ったら所轄の保健所に聞けます。無料で、最終的に判断する主体に直接確認できる方法です。業者の説明と保健所の見解が食い違うことは実際にあるので、重要な判断ほど確認しておくことをおすすめします。
御院の表記を、条項に沿って確認しませんか
現在のホームページやGoogleビジネスプロフィールに該当する表記がないかを、無料で診断しています。該当箇所と、ガイドラインの条項番号、代替となる表記をまとめてお送りします。
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